研究テーマ

研究概要

アポトーシス(Apoptosis)って何?

1)アポトーシス (apoptosis):積極的、機能的細胞死

2)アポトーシスの意義

3)アポトーシスとネクローシス

4)アポトーシスと疾患

5)アポトーシスの分子機構

パイロトーシス (Pyroptosis) って何? New

炎症って何?

もう少し具体的に

1)抗Fasリガンド抗体を用いた炎症性疾患治療法、がん予防法の研究とFasリガンドの炎症誘導機構の解明を目指した研究>>

2)新しいアポトーシス・炎症関連蛋白群、NLRファミリーの研究>>

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研究概要

我々の研究室では細胞死と炎症の密接な関わりに着目して、そのつながりを分子レベルで明らかにし、がんや炎症性疾患の治療や予防に役立てるための研究をしています。 …もう少し具体的に>>


我々人を含む個体の死は、多くの場合、病気や事故による望まない死です。ところが、我々の体を構成する個々の細胞の死は、その多くが個体全体の利益のための計画的な細胞死=プログラム細胞死(programmed cell death)であることが分かってきました。


プログラム細胞死という言葉は、もともと個体発生の過程で特定の時期に特定の細胞が死ぬ(例えば、オタマジャクシがカエルになる過程で尾の細胞が死んでいくような現象)に対して用いられました。しかし、放射線などで遺伝子が酷く傷ついたり(そのまま生き続けるとがんになる可能性がある)やウイルスに感染したりした場合も、細胞は死ぬようにプログラムされていることが明らかになり、最近では、このような細胞死も含めてプログラム細胞死と呼ばれています。


プログラム細胞死を起こした細胞は、多くの場合、アポトーシス(枯死)と呼ばれる死に方をします(>アポトーシス動画)(>アポトーシスって何?)。これに対し、放射線や熱、毒などで細胞が自殺する能力さえ奪われるほど強い障害を受けると、細胞はネクローシス(壊死)と呼ばれる死に方をします(>ネクローシス動画)。このため、一般に、プログラム細胞死はアポトーシス、外的な要因による受動的な細胞死はネクローシスと考えられてきました。

ところが、最近になって、アポトーシスとは異なる様々なプログラム細胞死の存在が明らかになってきました。見た目はネクローシスとそっくりなプログラム細胞死も存在します。例えば、サルモネラ菌のような細胞内寄生細菌に感染したマクロファージは、殺菌に失敗すると、しばしばネクローシス様の細胞死を起こします。以前は、この細胞死は細菌の産生する毒素などによる受動的な細胞死と考えられていました。ところが、最近になって、この細胞死は、発熱物質(パイロジェン)であるIL-1βの産生を伴うマクロファージの積極的な細胞死であることが明らかになり、パイロトーシスと呼ばれています(>パイロトーシスって何?)。


一方、炎症とは、病原体に感染したり火傷した時に患部が「熱っぽく赤く腫れ上がってズキズキする」やつです(>炎症って何?)。これは内因性、外因性の刺激物に反応して、抹消血管の拡張、透過性の亢進、白血球の浸潤がおこるためです。さらに、その後におこる白血球による感染微生物などの異物や死細胞の除去、損傷組織の修復なども炎症の過程のなかに含まれます。

一般に、細胞がネクローシスで死ぬと炎症を誘導するが、アポトーシスで死ぬと炎症を起こさないと言われています。ところが、その後の研究から、アポトーシスの誘導に関わる分子機構と炎症の誘導に関わる分子機構には高い類似性があることが分かってきました。また、炎症の過程ではアポトーシスが沢山起きますし、我々の研究から炎症を誘導するアポトーシスもあることが分かってきました。これらのことから、我々は、アポトーシスと炎症の機構は共通の祖先的生体防御システムから、機能的にも密接に関連しながら進化したものと考えています。

この様な考えを背景に、我々はアポトーシスと炎症の双方に関連する蛋白因子を同定し、その機能を明らかにすることにより、生体防御機構の一端を明らかにしたいと考えています。また、我々が取り扱う分子は、がんや炎症性疾患をはじめとする様々な病気と関連性があり、これらの病気の診断や治療に役立つ発見や発明も重要な使命と考えて研究しています。

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アポトーシス ( Apoptosis )て何?

 

1)アポトーシス (apoptosis):積極的、機能的細胞死

私たち人間や動物の個体の死は、多くの場合病気や事故などの外的な要因によるいわば消極的な死です。これに対しその個体を構成する個々の細胞の死 は、多くの場合自殺(自爆による積極的な死)であることが判っています。そして、細胞が自殺するとき、多くの場合アポトーシス(枯死)と呼ばれる死に方をします。

 

2)アポトーシスの意義

もちろん細胞が積極的に死ぬのは、それが個体全体の利益になるという立派な理由があるからです。個体発生の過程で様々な臓器、組織の機能的な ”形 ”を刻むために余分な細胞を除去するとき、またその後も古くなった細胞が新しい細胞と入れ替わるとき、除かれるべき細胞はアポトーシスを起こして死ぬことが解っています。例えば5本の指が出来るのは、指と指の間の細胞が死んで無くなるからです。また、環境からの様々な物理化学的ストレス(放射線、熱、薬剤)によって修復しがたいほど傷ついた細胞もアポトーシスを起こします。これは、傷ついた細胞が癌細胞に変化するのを未然に防ぐためであると考えられています。ウイルス感染によってもアポトーシスが誘導されます。時にはある種の細胞が他の細胞に自殺を促すこともあります。我々が研究しているFasリガンドというサイトカイン(デス因子)は、受容体Fasを介して細胞に「自殺しなさい」という指令を伝えるタンパク質です。これらの場合、一見他殺のように見えますが、細胞の自爆装置が活性化されて死ぬという意味において広義の自殺と定義付けることが出来ます。このように、細胞が必要に応じて自殺するということは、生命の維持に不可欠な、細胞の大切な機能であるということができます。

 

3)アポトーシスとネクローシス

アポトーシスでは、細胞の自爆装置が活性化されて死ぬと書きましたが、この自爆装置は多くの種類のタンパク質やそれ以外の細胞内分子がかかわる複雑な生化学反応によって成り立っており、ATPも必要とします。したがって、極度の物理化学的ストレスにより、一瞬のうちに細胞の生化学的機能が破壊されたり、ATPが枯渇するような状況になると、アポトーシスすら起こすことが出来ません。このような状況になると、細胞膜の浸透圧調節機能が失われ、細胞内に水が流れ込んで、細胞は破裂してしまいます。このような死に方はネクローシスと呼ばれます。破裂した細胞からは、プロテアーゼなどが漏れ出し、周囲の正常な細胞を傷害したり炎症を起こしたりします。

 

一方、アポトーシスを起こした細胞は、細胞膜のバリア機能を保ったまま、自らの染色体を切り刻み、細胞質や核を細切れにし、貪食細胞に食べてもらうための目印を出します。このため、細胞内の成分が漏れ出す前に貪食細胞によって処理され、一般的にはアポトーシスは炎症を起こさないと言われています。ただし、アポトーシスの仕組みには様々なものがあり、積極的に炎症を誘導するように仕組まれたアポトーシスも存在します。

 

4)アポトーシスと疾患

私たち個体の生命は、細胞の増殖、分化、死のバランスの上に成り立っています。このバランスが失われると個体発生もホメオスタシスも感染防御も正常に機能しなくなり、色々な病気になります。アポトーシスの過剰も過少も形態形成の異常をきたし、奇形を生じます。また、アポトーシスの抑制は癌や自己免疫疾患等の原因に、過多はエイズ、劇症肝炎、アルツハイマー病などの神経変性疾患など様々な疾患の原因になると考えられています。

 

5)アポトーシスの分子機構

アポトーシスの基本機構は線虫からヒトまで、極めてよく保存されています。アポトーシスの制御 (抑制と促進) に関るBcl-2ファミリー分子群、アポトーシスの実行に関る一群のシステインプロテアーゼ=カスパーゼなどの分子群がアポトーシス装置の中核をなし、アポトーシスシグナル伝達研究の焦点になっています。これらに加え、哺乳類では線虫には存在しない、Fasリガンドや腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor, TNF)などが属するデス因子群とそれらの受容体群によって構成される高度なアポトーシス誘導機構が構築されています。アポトーシスすなわち細胞死を制御するサイトカインの存在は、アポトーシスが増殖や分化と同様、精密な制御を受ける重要な細胞機能であることの証明と言えるでしょう。

 

このようにアポトーシスの役割、制御機構はこの数年の間に急速に解明されつつありますが、まだまだ新しい研究分野で、新しい概念、新しい分子が次々に報告されています。我々は特に、須田教授らが発見したデス因子であるFasリガンドの生理的機能や疾患との関わりについて、分子、細胞、動物のレベルで明らかにすることを目的に研究しています。

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パイロトーシス(Pyroptosis)って何?

 

我々の体内に侵入した細菌は、マクロファージや好中球などによって貪食され、破壊される。しかし、サルモネラ菌や赤痢菌をはじめ、多くの病原性細菌は、マクロファージに貪食されても破壊されず、むしろマクロファージ細胞内で増殖し、感染を持続、拡大させる。一方、このような細胞内寄生細菌に乗っ取られたマクロファージは、ネクローシス様の細胞死を起こすこと知られている。以前は、このような細胞死は、細胞内寄生細菌によって宿主細胞をが受動的に殺される、典型的なネクローシスと考えられていた。しかし、近年、細菌感染したマクロファージの細胞死は、カスパーゼ1に依存したプログラム細胞死であることが判明した。

 

カスパーゼ1はIL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインを前駆体型から成熟型に転換する蛋白分解酵素でもある。したがって、細菌に感染したマクロファージはIL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインを放出することで、周囲の細胞に危険を知らせると同時に、自らは細胞死を起こすようにプログラムされているのである。IL-1βはパイロジェン(発熱物質)としての作用が知られており、この細胞死がパイロジェンの産生を伴うことからパイロトーシスと呼ばれている。

 

Pyroptosisはパイロプトーシスと標記される場合もありますが、命名者のCooksonらはApoptosisと同様、真ん中のpは発音しないと記載している(Infection and Immunity, 2005, 73:1907-1916

 

最近、カスパーゼ1活性化の分子機構が明らかになってきた(>新しい細胞死・炎症関連蛋白群、NLRファミリーの研究)。我々は、カスパーゼ1の活性化やその制御に関わる分子の機能についても研究しています。


炎症って何?

 

炎症という言葉は医学では良く使われる言葉であるが、免疫学的にはかなりあいまいな言葉である。ステッドマンの医学辞典によると、炎症とは「様々な異常刺激による血管及び隣接する組織に起こる細胞学的、組織学的反応の動的な複合体からなる基本的な病理学上の過程」である。

炎症のムービーへリンク(http://blip.tv/file/282053)

 

よく炎症の4主徴は「発赤、熱感、腫脹、疼痛(患部が赤く熱っぽくなり、腫れて疼くように痛むこと)」とされているが、通常炎症と呼ばれるものがその全てを満たすわけではないようである。さらに、炎症という病態生理学的な過程には「1.局部反応とその結果起こる形態学的変化、2.原因物質の破壊又は除去、3.修復と治癒の過程が含まれる」とされている(図1)。このうち特に2の過程では免疫系が重要な役割を果たしている。

 

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図1 炎症の経過とアポトーシス
1.
局部反応とその結果起こる形態学的変化:ウイルスや細菌などの異物が侵入すると、それを認識したリンパ球や貪食細胞から放出される炎症誘導因子により血管が拡張して発赤、熱感が現れ、血管の透過性が亢進して滲出液により腫脹が現れる。また、白血球の組織への浸潤も起こる。2.原因物質の破壊又は除去:浸潤したヘルパーT細胞(Th)はサイトカインを産生し、他の白血球を活性化する。B細胞は抗体を産生して異物を凝集し、好中球(N)やマクロファージ(M)による異物の貪食を促進する。細胞傷害性T細胞(CTL)はウイルス感染細胞などにアポトーシスを誘導する。3.修復と治癒:異物の除去が終わると、役目を負えた白血球はアポトーシスを起す。損傷した組織は修復されるが、損傷がひどいときは一部は繊維化される。2,3のステップにおいてアポトーシス細胞はマクロファージなどによって貪食される。

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もう少し具体的に

 

1)抗Fasリガンド抗体を用いた炎症性疾患治療法、がん予防法の研究とFasリガンドの炎症誘導機構の解明を目指した研究

Fasリガンドはアポトーシスを誘導するサイトカイン、いわゆるデス因子の仲間です。これまでの研究から、Fasリガンドは細胞障害性T細胞などがウイルス感染細胞やがん細胞などの標的細胞を殺す(自殺しろと命令を下す)際に働いていること、役目を終えた活性化T細胞や自己反応性のリンパ球の除去に関与していることなどが分かっています(総説1)。実際、Fasリガンドやその受容体であるFasを欠損したマウスはリンパ腫と自己免疫疾患を発症します。リンパ腫や自己免疫疾患を発症する遺伝病の患者さんの一部が、突然変異したFas遺伝子を持つことも知られています。

 

一般に、アポトーシスは炎症を誘導しない細胞死と言われていますが、我々の研究から、Fasリガンドは肝炎などの炎症性疾患の発症機序に深く関わっていることも示唆されています。例えば、Fasリガンドの中和抗体を致死的な劇症肝炎のモデルマウスに投与すると、マウスは死を免れます。また、慢性肝炎から肝癌を発症するモデルマウスに投与すると、肝炎が抑制されるだけでなく、慢性肝炎の結果として起きる肝癌の発症も著しく抑制されます。これらのことから、Fasリガンドの中和抗体やFasリガンドの活性を抑制する薬剤は肝炎の治療薬となる可能性があります(総説4)

 

Fasリガンドを発現する細胞をマウスに移植したり、遺伝子工学の手法でマウスの臓器に異所性にFasリガンドを発現させると、好中球の浸潤を伴う激しい炎症がおこります。つまりFasリガンドがアポトーシス誘導作用の他に、炎症誘導作用を持っているのです(総説2, 総説3)。当然、このこととFasリガンドが様々な炎症性疾患と関わっていることには関係があると考えられます。

 

我々は、Fasリガンドの炎症誘導作用の分子メカニズムに着いても研究しています(総説2)。Fasリガンドによるアポトーシスの誘導に働くカスパーゼ8が、炎症誘導にも重要な役割を果たしていることが明らかになっています(Imamura et al. J.Biol. Chem., 2004)

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2)新しい細胞死・炎症関連蛋白群、NLRファミリーの研究>>

最近apoptotic protease-activating factor (Apaf)-1と類似の構造をもつ20種類を越す蛋白質が発見され、それらが炎症とアポトーシスの誘導や制御に働く分子であることが明らかになってきている(図2須田貴司、細胞工学24巻9号 2005)。これらの蛋白は分子中央に核酸結合領域、カルボキシル末端にロイシンリッチ・リピート領域を持ち、Nucleotide-binding domain and leucine-rich repeat-containing (NLR)ファミリーと呼ばれている。少なくとも一部のNLRファミリーはトル様受容体のように病原体に特徴的な分子構造(PAMP)を認識し、自然免疫の活性化に働いていると考えられている。例えば、Nod1Nod2は細菌ペプチドクリカンの部分構造を認識し、NF-kBの活性化を誘導し、自然免疫系の活性化に働いている。また、Cryopyrin (PYPAF1, NALP3), PYPAF5 (NALP6), PYPAF7 (NALP12), NALP1ASCと呼ばれるアダプター蛋白を介してカスパーゼ1を活性化し、IL-1β蛋白の成熟・分泌を誘導する。CARD12 (Ipaf, NLRC4)は直接カスパーゼ1を活性化し、IL-1β蛋白の成熟・分泌を誘導できる。また、CARD12ASCとも結合し、その場合はアポトーシスやNF-kBの活性化に寄与する。我々は、ASCを介するNF-kBの活性化にカスパーゼ8が重要な役割を果たしていることを発見した(Hasegawa et al. J. Biol. Chem. 2005)

 

また、我々はPYNODと名付けた新しいNLR蛋白を発見した。この蛋白はロイシンリッチ・リピート領域を持たないユニークなNLR蛋白で、細胞に過剰発現させると、カスパーゼ1やASCと結合し、IL-1β蛋白の成熟・分泌、NF-kBの活性化、アポトーシスを抑制する機能を持つ(Wang et al. Int. Immunol. 2004)。我々は、PYPAF3 (NALP7)もカスパーゼ1を阻害し、IL-1β蛋白の成熟・分泌を阻害することを見いだした(Kinoshita et al. J. Biol. Chem. 2005)。これらのことから、我々は、NLRファミリーの仲間にはNod1Nod2CryopyrinCARD12などに代表されるような炎症促進性のメンバーの他に、PYNODPYPAF3などのような炎症抑制性のメンバーが存在すると考えている。現在、我々はPYNOD蛋白の発現プロファイルや個体レベルでの機能、癌との関わりなどの解明を目指して研究を進めている。

 

説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: Apaf1LikeP

2. NLR蛋白の基本構造と機能

A. NLR蛋白は下流にシグナルを伝達するためのエフェクタードメイン、ATPを結合し、自己多量体化に働くNOD、上流のシグナル物質を認識するLRRからなる。B. ゲノム解析などから、ヒトで20腫を越えるメンバーが発見されている。多くのNLR蛋白がアポトーシスと炎症の誘導または制御に働いている。

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