ASC:細胞死と炎症の接点で働くアダプター分子
ASC at
the crossroad of cell death and inflammation
実験医学 (羊土社) 2008 26:3013-3018
須田貴司 (SUDA TAKASHI)
金沢大学がん研究所・免疫炎症制御研究分野
Kanazawa University, Cancer Research Institute,
Division of Immunology and Molecular Biology
サマリー
ASCは2種類のホモフィリック相互作用ドメインからなるアダプター蛋白である。ASCは細胞質病原体センサーと考えられるNLR蛋白とカスパーゼをつなぐアダプターとして働き、カスパーゼ1依存性の炎症性サイトカイン活性化、NF-kB活性化、アポトーシスやネクローシスの誘導など様々な応答のシグナル伝達に関与する。これらの機能によって、ASCは自然免疫系の活性化に重要な役割を果たすと同時に、がんの抑制にも寄与していると思われる。一方、ASCは自己炎症疾患の発症にも寄与している。
略語
ASC, apoptosis-associated
speck-like protein containing caspase recruitment domain
TMS1, target
of methylation-induced silencing 1
NLR, nucleotide-binding
domain and leucine-rich repeat-containing、またはNOD-like receptor
PYD, pyrin domain
CARD, caspase-recruitment domain
FADD, Fas-associated death domain protein
HMGB1, High Mobility Group Box 1
はじめに
ASC(apoptosis-associated speck-like
protein containing caspase recruitment domain、Gene symbol: PYCARD)は、抗がん剤でアポトーシスを誘導した白血病細胞で、巨大な凝集塊を形成する細胞質蛋白質として発見された1)。これとは独立に、乳がん組織でDNAメチル化により発現が抑制されている遺伝子の産物として同じ蛋白質が同定され、TMS (target of methylation-induced silencing) 1と命名された2)。ASCの発現はメラノーマや肺がん、大腸がんなどでも抑制されている。一方、ASCは自然免疫の方面からも注目されている。すなわち、ASCはカスパーゼ1と細胞質病原体センサーとして働くNLR(nucleotide-binding
domain and leucine-rich repeat-containing、またはNOD-like receptorの略)蛋白(クリオピリンやCARD12)をつなぐアダプター蛋白であることが明らかになっている。このようにASCは細胞死、がん、自然免疫の接点で機能する蛋白であることが明らかになってきた。本稿では、ASCの構造、機能、疾患とのかかわりなどについて概説する。
1.ASCの分子構造
ASCはアミノ末端のパイリンドメイン(pyrin domain, PYD)とカルボキシル末端のカスパーゼリクルートメントドメイン(caspase-recruitment domain, CARD)からなる(図1)。PYDやCARDはデスドメインスーパーファミリーに属するホモフィリック相互作用ドメインで、デスドメイン(DD)やデスエフェクタードメイン(DED)と近い関係にある。その意味で、ASCは、DEDとDDからなるFADD(Fas-associated death domain protein)と親戚のような関係にある。FADDはFasなどのデス受容体とカスパーゼ8をつなぐアダプターとして働くのに対し、ASCはクリオピリンやCARD12などのNLR蛋白とカスパーゼをつなぐアダプターとして働くことが明らかになっており(後述)、ASCとFADDには機能的にも類似性がある。
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図1. ASCはFADDと構造的に類似している。ASCのパイリンドメイン(PYD)とカードドメイン(CARD)はホモフィリック(相同ドメイン同士の)相互作用に働き、αへリックスの空間配置に類似性があるデスドメインフォールドスーパーファミリーに属する。その意味で、同じスーパーファミリーに属するデスエフェクタードメイン(DED)とデスドメイン(DD)からなるFADDと構造的に親戚関係にある。各ドメインの立体構造はNational
Center for Biotechnology InformationのMolecular
Modeling Data Base (MMDB)から取得した。なお、ASCのCARDの立体構造は見つからなかったため、代わりにICEBERGのCARDの立体構造を示してある。各立体構造のMMDB IDは以下のとおりである。ASC PYD, 25147; ICEBERG CARD, 14912; FADD DED, 8936; FADD DD,
14675 |
2.ASC遺伝子の発現制御ととがん
様々ながん組織において、DNAメチル化によるASC遺伝子のサイレンシングが認められることは既に述べた。一方、ASCのプロモーター領域には代表的ながん抑制因子で転写因子でもあるp53が結合する配列が存在し、p53によってASCの発現が誘導される 3)。また、siRNAを用いてASCの発現を抑制することで、アデノウイルスベクターを使ってp53をSaos2骨肉主細胞に導入することで誘導されるアポトーシスやE1Aでトランスフォームしたヒト繊維芽細胞株(IMR90-E1A)をエトポシド処理して誘導されるアポトーシスが抑制される。おそらく、ASCはp53の下流でDNA損傷などによるアポトーシスに寄与し、がんの発生を抑制する役割を果たしていると考えられる。
3.自然免疫系におけるASCの役割
上述のNLR蛋白は、ヒトで20種類以上のメンバーからなる蛋白ファミリーだが、少なくともその一部は特定の病原体の認識やそれらに対する自然免疫応答に関与しており、さらにその一部がASCと相互作用することでシグナルを伝える4), 5)。ASCと相互作用するNLR蛋白の内、現在、最も解析が進んでいるのがクリオピリン(PYPAF1、NALP3、CLR1.1、Gene
symbol: NLRP3)とCARD12 (IPAF、CLAN、CLR2.1、Gene symbol: NLRC4)である。
クリオピリンはASCを介してカスパーゼ1を活性化し、IL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインが不活性な前駆体から活性型へ転換する反応を誘導する6)(図2)。クリオピリン欠損マウスの解析などから、クリオピリンは細菌やウイルスのRNAなどの病原体成分や尿酸塩、アスベスト、アラムなど炎症誘導性の無機物によって誘導されるかスパーゼ1依存性のIL-1β活性化に必要であることが判明している7), 8), 9) 10), 11)。ASC欠損マウスマクロファージもこれら全ての刺激によるかスパーゼ1活性化が著しく低下している。尿酸塩は痛風、アスベストは内皮腫の原因となることから、これらの疾患の発症機序にASCが関与している可能性が高い。また、アラムは抗原の免疫原性を高めるアジュバントとして用いられるが、アラムがASCを活性化することで免疫系の活性化に働いている可能性が考えられる。
図2. ASCはNLR蛋白とカスパーゼ1をつなぐアダプターである。クリオピリンやCARD12は病原体成分や炎症物質に応答して、カスパーゼ1依存性のIL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインのプロセシング(限定分解による前駆体型から成熟型への転換)を誘導する。ASCはクリオピリンとカスパーゼ1をつなぐアダプターとしてエッセンシャルな役割を果たす。CARD12は直接カスパーゼ1を結合して活性化しうるが、ASCとも結合し、またASC欠損マウスではCARD12依存性のカスパーゼ1活性化も抑制されることから、ASCはCARD12を介したカスパーゼ1の活性化にも寄与していると考えられる。 |
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クリオピリンの突然変異はChronic Infantile Neurologic, Cutaneous, Articular syndrome、Muckle-Wells syndrome、Familial Cold
Urticariaなどの自己炎症疾患の原因となる12), 13)。獲得免疫系が自己抗原に反応して起こす自己免疫疾患と異なり、自己炎症疾患は自然免疫系が無秩序に活性化されるために起こる。最近これらの患者に対し、IL-1βアンタゴニスト製剤(アナキンラ)が有効であることが示され14)、ASCを介した過剰なIL-1βの産生がこれらの疾患の重要な要因であると考えられる。
CARD12はサルモネラ菌などの鞭毛淡白フラジェリンを認識し、サルモネラ菌の細胞内感染によるかスパーゼ1依存性IL-1β産生に重要な役割を果たしている15), 16)(図2)。HEK293T細胞を用いた遺伝子再構成実験では、CARD12はASCが存在しなくても直接カスパーゼ1に結合し、活性化する。しかし、サルモネラ菌感染によるIL-1β産生はASC欠損マウスのマクロファージでも抑制されており17)、生理的条件では、CARD12によるカスパーゼ1の活性化にもASCが寄与していると考えられる。
ASC欠損マウス由来マクロファージでは、様々な病原体由来物質の刺激や細菌感染によるNF-kBの活性化やサイトカイン遺伝子の発現は正常に起きる17), 18)。しかし、ヒトのマクロファージ細胞株にPorphyromonas gingivalisを感染させた時に見られるNF-kBの活性化やサイトカイン遺伝子の発現は、siRNAでASCの発現を抑えると抑制される19)。したがって、ヒトでは病原体刺激によるNF-kBの活性化にASCが寄与していると考えられる。
クリオピリンやCARD12以外にも、ASCを活性化するNLR蛋白や病原体識別にかかわると考えられるNLR蛋白が存在するが、紙面の関係でここでは触れない。NLR蛋白に関する詳細は他の総説
4), 5)を参照していただきたい。
4.ASCを介するアポトーシスの分子機構
ASCのアポトーシス誘導メカニズムに関しては、当初、カスパーゼ9依存性であると報告された20)。また、ASCはBaxを結合してミトコンドリアにリクルートすることによって、Bax依存性の細胞死を誘導すると報告された3)(図2)。一方、増本ら21)は、人工的にASCを多量体化させる方法などでHEK293T細胞にアポトーシスを誘導する実験系では、ASCによるアポトーシスはカスパーゼ8依存性であると報告した。
我々も(1)CARD12の恒常活性型変異体とASCを共発現させる方法、(2)Nod2(ASCは活性化できないがムラミルジペプチドで活性化されるNLR蛋白)のリガンド認識部位(ロイシンリッチリピート)と多量体化領域(NOD)とCARD12のASC結合領域(CARD)の融合蛋白(C12N2)をASCと共発現させ、その細胞をムラミルジペプチドで刺激する方法で、様々な細胞株にASC依存性アポトーシスが誘導されることを見出し、その分子機構を検討した。その結果、ASCを介するアポトーシスは基本的にカスパーゼ8依存性であることが判明した22)(図3)。しかし、一部の細胞ではASC依存性アポトーシスがBcl-XLやBcl-2で阻害され、カスパーゼ8と9の両方に依存性を示した。デス受容体にはカスパーゼ8が直接会合して活性化するが、その下流で直ぐにカスパーゼ3が活性化されてアポトーシスが誘導されるタイプ1細胞と、カスパーゼ8によりアポトーシス促進生Bcl-2ファミリーのBidが切断・活性化され、ミトコンドリア経路のアポトーシスが誘導されるタイプ2細胞が存在することが知られている。タイプ2細胞ではデス因子によるアポトーシスもBcl-2などで抑制される。そこで、Fasリガンドによるアポトーシスを指標に細胞のタイプを分類したところ、ASC依存性アポトーシスがBcl-2やBcl-XLで抑制された細胞は全てタイプ2細胞であった。さらに、タイプ2細胞のASC依存性アポトーシスはBidに対するsiRNAで抑制された。すなわち、ASC依存性アポトーシスは、デス因子によるアポトーシスと同じくカスパーゼ8依存性であり、タイプ2細胞ではBid依存性にミトコンドリア経路を介したアポトーシスが誘導されることが明らかになった(図3)。
ヒトASCにはNF-kBの活性化を誘導する作用があることを先に述べたが、我々の実験系では、この応答もカスパーゼ8依存性であることが判明している23)。FasリガンドによるNF-kBの活性化もカスパーゼ8依存性であり、この点でもASC経路はFas経路と類似している。
図3.ASCはカスパーゼ8依存性のアポトーシスを誘導する。CARD12を介するASC活性化をミミックする我々の実験系では、ASCは様々な細胞株にカスパーゼ8依存性のアポトーシスを誘導する。Fasリガンドなどのデス因子によるアポトーシスと同様、タイプ2細胞ではBidを介したアポトーシスが誘導される。 |
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5.ASCを介するネクローシス
クリオピリンの活性更新型突然変異が自己炎症性疾患の原因となることを先に述べた。最近、藤沢らは我々との共同研究で、クリオピリンの疾患関連変異体がTHP-1細胞に細胞死を誘導することを示した24)。驚いたことにクリオピリン変異体による細胞死はアポトーシスではなくカテプシンB阻害剤により強く阻害されるネクローシス様の細胞死であった(図4)。Willinghamら25)も、同じくTHP-1細胞にクリオピリン変異体を発現させる方法で、このネクローシスがASCに対するsiRNAで阻害されることを示しており、ASCはある種の状況ではネクローシスも誘導すると考えられる。しかし、ASCの活性化がどのようにカテプシンBの活性化を誘導するのか、またなぜ同じASCからのシグナルがアポトーシスを誘導したりネクローシスを誘導したりするのかは不明である。また、Willinghamらは、クリオピリン変異体によりネクローシス様の細胞死を起こした細胞からは、HMGB1 (High Mobility Group Box 1)が遊離されることも報告している。HMGB1は、通常は核蛋白質として働いているが、ネクローシスを起こした細胞から遊離され、強い炎症誘導作用をもつことが知られている。従って、クリオピリン変異体による自己炎症疾患に、IL-1βの過剰産生以外にも、ネクローシスとそれによるHMGB1の放出というメカニズムが関与している可能性も考えられる。
Willinghamらは赤痢菌をTHP1細胞やマウスの骨髄由来マクロファージに感染させた際に見られる細胞死が、クリオピリンとASCに依存したネクローシス様の細胞死であることを示した(図4)。サルモネラ菌などの感染によるマクロファージ細胞死にもASCが寄与しているが、この場合の細胞死はカスパーゼ1依存性であるとされ、パイロトーシスと呼ばれている。これに習い、Willinghamら赤痢菌感染によるASC依存性のネクローシス様細胞死をパイロネクローシスと呼んでいる。このような細胞死の様態の違いが、細菌に対する生体防御にどのような意味を持つのかは現時点では不明である。
図4.Chronic Infantile
Neurologic, Cutaneous, Articular syndrome、Muckle-Wells
syndrome、Familial Cold Urticariaなどの自己炎症疾患の原因となる疾患関連クリオピリン変異体は、ヒト単球系細胞株THP-1に発現させると、ASC依存性のネクローシス様細胞死を誘導する。この細胞死はカテプシンB阻害剤CA-074Meによって抑制される。 THP-1細胞に赤痢菌を感染させると、クリオピリンとASC依存性に同様の細胞死が誘導される。 |
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おわりに
ASCを活性化することで様々ながん細胞株に対しアポトーシスを誘導することが出来ることから、ASCはがん治療の標的分子となる可能性があり、我々は現在この方向の検討も行っている。一方、ASCは自然免疫系の病原体認識シグナル伝達機構において重要な役割を果たすと同時に、自己炎症性疾患の発祥機序にも関与していることが明らかになった。したがって、ASCの活性を制御できれば、感染防御や自己炎症性疾患の治療に役立つ可能性がある。ASCが状況に応じてアポトーシスを誘導したりネクローシスを誘導したりするという結果は我々にとっても意外であった。しかし、これまでも、例えばTNFが細胞によってアポトーシスを誘導する場合とネクローシスを誘導する場合があるという報告はあった。しかし、細胞のどのような要因が細胞死の様態を決定しているのかは不明であり、今後の研究課題の一つである。
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