インフラマソームと細胞死
実験医学 2012, 30:566-570
須田貴司・金沢大学 がん進展制御研究所 免疫炎症制御研究分野
サマリー
マクロファージは細胞内への病原体の侵入を感知すると、インフラマソームと呼ばれる蛋白複合体を形成してカスパーゼ1を活性化する。その結果、IL-1βやIL-18などのサイトカインが分泌され炎症・免疫応答を誘導すると共に、マクロファージはパイロトーシスと呼ばれるカスパーゼ1依存性の細胞死を起こす。良く似た状況でヒト単球細胞はパイロネクローシスと呼ばれるカスパーゼ1非依存性の細胞死を起こすと報告されているが、我々はこの細胞死もカスパーゼ1依存性であることを示した。パイロトーシスやパイロネクローシスは形態的にはネクローシスの特徴を示す細胞死で、アポトーシスとは異なる炎症誘導性のプログラム細胞死と考えられる。
略語
BIR, baculovirus inhibitor of apoptosis protein repeats
CARD, caspase-recruitment domain
DAMPs, danger-associated molecular patterns
HIN-200, hemopoietic interferon-inducible nuclear proteins with a 200-amino acid motif
LRR, leucine-rich repeats
MDP, muramyl dipeptide
NLR, nucleotide-binding domain and leucine-rich repeat-containing
NOD, nucleotide-binding and oligomerization domain
PYD, pyrin domain
PAMPs, pathogen-associated molecular patterns
WD40R, WD40 repeats
はじめに
IL-1βやIL-18はマクロファージなどから分泌され、炎症反応や免疫応答を誘導するサイトカインである。これらのサイトカインは、カスパーゼ1によりプロドメイン(前駆体領域)が切断、除去されることで活性型になり、分泌される。カスパーゼ1自身も(他のカスパーゼ同様)アミノ末端にプロドメインを持つチモーゲンとして産生され、自己消化あるいは他のカスパーゼによってプロドメインが除かれ、さらに酵素領域も大サブユニット、小サブユニットに切断され、これら2つのサブユニットが複合体を形成することで成熟型になる。これまでカスパーゼ1がどのようにして活性化されるのか不明であったが、近年、カスパーゼ9の活性化を担う複合体であるアポトソーム(図1)に相当するカスパーゼ1活性化誘導複合体の構成蛋白が明らかになってきた。カスパーゼ1が炎症(inflammation)の誘導に働くことから、この複合体はインフラマソーム(inflammasome)と呼ばれている。
一方、細菌やウイルスに寄生されたマクロファージはしばしばネクローシスを起こして死ぬ。能動的細胞死であるアポトーシスに対し、一般にネクローシスは受動的細胞死と位置付けられており、細菌感染によるマクロファージの細胞死も、典型的な受動的細胞死と考えられていた。しかし、近年、このような細胞死が能動的な細胞死であることが判明し、パイロトーシスやパイロネクローシスと呼ばれている。
1.インフラマソーム
Apaf-1と構造が類似したカスパーゼ1活性化誘導因子として最初に報告されたのはNLRC4である1)。NLRC4はApaf-1同様、アミノ末端にcaspase-recruitment domain (CARD)、分子中央にnucleotide-binding and oligomerization domain (NOD)を持つ(図1)。また、カルボキシル末端にはWD40 repeats (WD40R)の代わりにleucine-rich repeats (LRR)が存在する。NLRC4の発見と前後してNODとLRRを持つ蛋白が多数発見され、nucleotide-binding domain and leucine-rich repeat-containing (NLR*1)ファミリーと呼ばれている。多くのNLR蛋白は、アミノ末端にCARD、pyrin domain (PYD)、またはbaculovirus inhibitor of apoptosis protein repeats (BIR)を持つ。PYDはCARD同様、デスドメインスーパーファミリーに属するホモフィリック相互作用ドメインで、基本的にCARDはCARDと、PYDはPYDと結合する。ヒトには22種類のNLR蛋白が存在するが、その内、NLRC4、NLRP1、NLRP3がカスパーゼ1の活性化に働く(図1)。
図1.(左)アポトーシスの過程では、ミトコンドリアから細胞質へ放出されたチトクロムcがApaf-1に結合することをきっかけにチトクロムc、ATP、Apaf-1、カスパーゼ9からなる複合体がさらに7量体化した巨大複合体、アポトソームが形成される。(右)様々なPAMPsやDAMPs、環境物質がインフラマソームの形成を誘導する。ASCはPYDとCARDからなり、NLR蛋白やAIM2とカスパーゼ1をつなぐアダプター蛋白として機能する。また、スペックと呼ばれる凝集塊を形成して、カスパーゼ1の活性化を誘導する。
NLRC4のCARDにはカスパーゼ1とアダプター蛋白ASCが直接結合しうる。NLRC4は直接カスパーゼ1を活性化しうるが、ASC欠損マウスではNLRC4依存性のIL-1β産生も抑制されていることから、ASCは何らかの形でNLRC4の機能に寄与していると考えられる2)。ヒトNLRP1はアミノ末端にPYD、カルボキシル末端側にCARDを持つが、マウスのホモログ(NLRP1a, NLRP1b)にはPYDが無い。NLRP1のCARDにカスパーゼ1が直接結合する。NLRP1とNLRP3のPYDにはASCを介してカスパーゼ1が結合する。
これらのNLR蛋白は様々な病原体関連物質(pathogen-associated molecular patterns, PAMPs)に応答する(図1)。NLRC4は、BIRを持つNLR蛋白であるNAIPと共に細菌鞭毛のフラジェリンやIII型分泌装置のロッド蛋白に応答する(図1)。マウスには7種類のNAIPがあり、それらがNLRC4のリガンド特異性を決めている3,4)。ヒトのNLRP1は細菌ペプチドグリカンの部分構造であるムラミルジペプチド(muramyl dipeptide, MDP)に応答するとされている5)が、マウスNLRP1bは炭疽菌毒素に応答する。NLRP3は病原体のRNAやMDPなどのPAMPs、細菌の孔形成毒素、ATP、尿酸結晶、βアミロイド、コレステロール結晶などの内在性の危険関連物質(danger-associated molecular patterns, DAMPs)、アスベスト、シリカなどの環境汚染物質など様々な刺激に応答し6-10)、痛風、アルツハイマー病、動脈硬化、中皮腫、珪肺など様々な疾患に関与すると考えられている。何故NLRP3がこれほど多様な物質に応答しうるのかは不明である。THP-1ヒト単球系細胞株では、NLRC5が孔形成毒素以外の刺激によるNLRP3インフラマソームの活性化に必要である11)。しかし、NLRC5欠損マウスはNLRP3依存性IL-1β産生に異常は認めらない12)。したがって、NLRC5がNLRP3のリガンド特異性を決めているとは考えにくい。
NLRファミリー以外では、AIM2が唯一インフラマソームを形成する13,14)。AIM2はPYDとhemopoietic interferon-inducible nuclear proteins with a 200-amino acid motif (HIN-200)領域からなり、ASCを介してカスパーゼ1と結合する。DNAウイルスや野兎病菌感染によるマクロファージのIL-1β産生に重要な役割を果たしている15,16)(図1)。
2.パイロトーシスとパイロネクローシス
様々な病原体がマクロファージにカスパーゼ1依存性のネクローシス様細胞死を誘導する。このような細胞死はパイロジェンであるIL-1βの産生を伴う細胞死であることからパイロトーシスと呼ばれている17)。実際、カスパーゼ1欠損マウス由来のマクロファージは様々な細胞内寄生細菌やウイルス感染による細胞死が抑制されている。サルモネラ菌、緑膿菌に対してはNLRC4欠損マクロファージ 2,18)、野兎病菌やワクシニアウイルスに対してはAIM2欠損またはノックダウンマクロファージも同様に抵抗性を示す13,16)。
黄色ブドウ球菌、歯周病菌、淋菌、アデノウイルスなどの感染によりヒト単球もIL-1βの産生を伴うネクローシス様の細胞死を起こす。この細胞死はNLRP3とASCを必要とするが、カスパーゼ1の阻害剤では抑制されず、カテプシンB阻害剤として知られるCA-074Meで阻害されることから、パイロトーシスとは異なる細胞死であると考えられ、パイロネクローシスと呼ばれている19-22)。
我々の実験でも、黄色ブドウ球菌感染によるヒト単球系細胞のNLRP3依存性のネクローシス様細胞死(図2)は、CA-074Meで阻害されるが、IL-1βの分泌を抑制する濃度の10倍の濃度でカスパーゼ1阻害剤を加えてもほとんど抑制されず、パイロネクローシスの性質を示した。ところが驚いたことに、この細胞死はカスパーゼ1の発現をノックダウンすると抑制された23)。さらに、緑膿菌感染によるNLRC4依存性細胞死もカスパーゼ1のノックダウンで抑制されたが、カスパーゼ1の阻害剤では抑制されなかった。他の実験結果も合わせ、現在我々は、@細菌感染によりNLRP3が活性化されても、NLRC4が活性化されても、ヒト単球はパイロネクローシスを起こす、Aこのパイロネクローシスにはカスパーゼ1のプロテアーゼ活性は必要ないが、カスパーゼ1蛋白が重要な役割を果たしている、と考えている。
図2.THP-1ヒト単球系細胞株にFITC(緑)標識した黄色ブドウ球菌を感染させ、4,6-diamidino-2-phenylindole (DAPI、青)存在下で3時間後から6分間隔でタイムラプス撮影を行った。ネクローシスで細胞膜が破綻した細胞は核がDAPIで染色され、細胞が膨潤する。この時点で核の収縮やクロマチンの凝集は観察されない。
最近Brozら24)は、マウスのマクロファージにサルモネラ菌などを感染させて誘導したパイロトーシスの実験系で、分子内のカスパーゼ切断サイトを全て変異させ、成熟型に転換できないカスパーゼ1変異体は、IL-1βのプロセシングはできないが、パイロトーシスは起こせることを示した。ただし、カスパーゼ1の活性中心の変異体ではパイロトーシスも誘導できないことから、パイロトーシスにはカスパーゼ1のプロテアーゼ活性が必要であると結論している。しかし、パイロトーシスもCA-074Meで抑制されるという報告があり25)、我々は、パイロネクローシスとパイロトーシスはヒトとマウスの相同の細胞死であり、カスパーゼ活性依存性の違いはヒトとマウスの種差ではないかと考えている。
上述のように、NLRC4依存性のIL-1β産生にはASCが重要な役割を果たすが、Brozらは、NLRC4依存性パイロトーシスにはASCが必要ないことも示した。ASCは活性化されるとスペックと呼ばれる巨大な凝集塊を形成する(図1,3)。Brozらは、NLRC4は活性化するとカスパーゼ1と複合体を形成し、これによってカスパーゼ1はそれ自身のプロセシングが起きなくてもある程度プロテアーゼ活性を獲得してパイロトーシスを起こすことができるが、IL-1βのプロセシングを効率よく誘導するには、さらにASCスペックが形成され、そこでカスパーゼ1自身がプロセシングによって成熟する必要があるというモデルを提唱している(図1)。
図3.非感染(左)、またはサルモネラ菌(Salmonella typhimurium)を感染させたNOMO-1ヒト単球系細胞(右)を抗ASC抗体で免疫染色した。感染細胞にはASCの巨大な凝集塊(スペック、矢頭)が、多くの場合一つの細胞に一個形成される。
3. パイロトーシス、パイロネクローシスの生理的役割
細菌感染によるマクロファージのネクローシスが受動的な細胞死と考えられていた頃は、細菌がマクロファージによる殺菌を免れるためにマクロファージを殺していると考えられていた。しかし、実際には、細菌に寄生されたマクロファージが能動的に死ぬのであれば、そのことが細菌の繁殖を制限するための生理的な応答である可能性がある。Miaら26)は、種々の遺伝子欠損マウスにフラジェリンを恒常的に発現するサルモネラ菌を接種し、菌の排除に寄与する宿主遺伝子を検討した。その結果、NLRC4とカスパーゼ1は必要だが、ASC、IL-1受容体、IL-1β、IL-18はほとんど寄与しないことが判明した。これらの結果は、インフラマソームが形成されることによりIL-1βやIL-18が産生されることではなく、パイロトーシスが起きることが菌の排除に重要であると考えるとよく説明できる。さらに、彼らはサルモネラ菌をマウスに接種した48時間後に人工的にフラジェリンの発現を誘導すると、菌を貪食したマクロファージが死に、代わりに菌を貪食した好中球が増えることを示した。これらの結果から、マクロファージがパイロトーシスを起こすと、サルモネラ菌は細胞外に放出され、マクロファージより殺菌力が強い好中球に貪食されることで効率よく排除されるのではないかと述べている。また、ネクローシスを起こした細胞は細胞内容物を周囲に放出するが、それらの中には様々なDAMPsが含まれている。このような死細胞由来DAMPsとしてよく知られるHMGB1*2は、パイロネクローシスを起こした細胞からも放出される27)。従って、パイロトーシスやパイロネクローシスはDAMPsの放出を促すことで、炎症・免疫応答を促進する可能性がある。
おわりに
インフラマソームの構成因子が明らかになってきたことで、カスパーゼ1の活性化機構が明らかになってきた。しかし、インフラマソームの生化学的実態には不明な点が多い。ここでは詳しく述べなかったが、インフラマソームは様々な疾患に関与しており、IL-1受容体アンタゴニスト製剤がそれらの疾患の治療に有効であることが示されつつある。インフラマソームにおけるカスパーゼ1活性化機構の詳細が明らかになれば、インフラマソーム関連疾患に対する低分子治療薬の開発が可能になると期待される。パイロトーシスとパイロネクローシスに関しては、カスパーゼ1から細胞死に至るシグナル伝達経路がほとんど分かっておらず、この点が今後の研究の一つの焦点になるであろう。また、これらの細胞死の生理的・病理的意義、死細胞から放出される生理活性因子の同定やその役割の解明も今後の課題である。
用語解説
*1 NLR, NOD-like receptorの略とする論文も多いが、NLR蛋白と各々の活性化誘導物質の直接的な結合が証明された例は少なく、レセプターという呼称が適切であるか疑問である。
*2 HMGB1, HMGB1は生細胞内では核蛋白として機能するが、細胞がネクローシスを起こすと細胞から放出され、炎症誘導作用を示す。
文献
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