新しいアポトーシス・炎症関連蛋白群、NLRファミリーの研究

最近apoptotic protease-activating factor (Apaf)-1と類似の構造をもつ20種類を越す蛋白質が発見され、それらが炎症とアポトーシスの誘導や制御に働く分子であることが明らかになってきている(須田貴司、細胞工学24巻9号 2005)。これらの蛋白は分子中央に核酸結合領域(Nucleotide-binding domain)、カルボキシル末端にロイシンリッチ・リピート領域を持つことから、NLRファミリーと呼ばれている。少なくとも一部のNLR蛋白はトル様受容体のように病原体に特徴的な分子構造(PAMP)を認識し、自然免疫の活性化に働いていると考えられている。例えば、Nod1Nod2は細菌ペプチドクリカンの部分構造を認識し、NF-κBの活性化を誘導し、自然免疫系の活性化に働いている。また、NALP3 (Cryopyrin, PYPAF1), NLRP1 (NALP1), NLRC4 (CARD12, Ipaf, CLAN)などはASCと呼ばれるアダプター蛋白と協働してカスパーゼ1を活性化し、IL-1β蛋白の成熟・分泌を誘導する。ASCは細胞死やNF-κBの活性化に寄与する。我々は、ASCを介するアポトーシスとNF-κBの活性化の両方にカスパーゼ8が重要な役割を果たしていることを発見した(Hasegawa et al. J. Biol. Chem. 2005)。また、カスパーゼ1を発現する細胞では、ASCの活性化によってネクローシス様の細胞死が起きること、この時カスパーゼ1の蛋白分解酵素としての活性は必要ないことなどを明らかにした(Motani et al. J. Biol.Chem. 2011)。

また、我々はPYNOD (別名NLRP10)と名付けた新しいNLR蛋白を発見した。この蛋白はロイシンリッチ・リピート領域を持たないユニークなNLR蛋白で、細胞に過剰発現させると、カスパーゼ1やASCと結合し、IL-1β蛋白の成熟・分泌、NF-κBの活性化、アポトーシスを抑制する機能を持つ(Wang et al. Int. Immunol. 2004)。また、PYNODトランスジェニックマウスでは、細菌感染などによるマクロファージのIL-1β産生能が低下し、致死量のリポポリサッカライド(細菌内毒素)の腹腔内投与に対し抵抗性を示すことを明らかにした(Imamura et al. J. Immunol. 2010)。我々は、NLRP7 (PYPAF3)もカスパーゼ1を阻害し、IL-1β蛋白の成熟・分泌を阻害することを見いだした(Kinoshita et al. J. Biol. Chem. 2005)。これらのことから、我々は、NLRファミリーの仲間にはNod1Nod2NLRP3NLRC4などに代表されるような炎症促進性のメンバーの他に、PYNODNLRP7などのような炎症抑制性のメンバーが存在すると考えている。現在、我々はPYNOD蛋白の発現プロファイルや個体レベルでの機能、癌との関わりなどの解明を目指して研究を進めている。

説明: C:\Users\sudat\Documents\sudat\HomePage\public_html\ResThemef\Apaf1LikeP.jpg

NLR蛋白の基本構造と機能

A. NLR蛋白は下流にシグナルを伝達するためのエフェクタードメイン、ATPを結合し、自己多量体化に働くNOD、上流のシグナル物質を認識するLRRからなる。B. ゲノム解析などから、ヒトで20腫を越えるメンバーが発見されている。多くのNLR蛋白がアポトーシスと炎症の誘導または制御に働いている。


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